思いもよらずに老人と出会い、夜は老人達とのゆんたくに花が咲いた。日中は老人達が彼らの作業をしていて人が集まってきたが、わたしはその世界のことや作業の内容がこれっぽっちも分からないので、昼は一人で石垣島を散策した。
最初に行きたかったのは、銀さんのサバイバルキャンプ終了後に連れて行ってもらったサトウキビジュースのお店である。石垣島産の果物とサトウキビの搾り汁だけの飲み物を出すお店で、いつもとは違うサバイバルキャンプの食生活と体調不良明けの最後の呼吸法でよれよれになったわたしに潤いを与えてくれたあの幻の、ように感じた果物とサトウキビの果汁が飲みたい。名前も知らないお店の名前を女将さんに聞くと、あっさりと場所が分かった。
その名も、米原地区にある「パーラーぱぱ屋」である。銀さんが、石垣島のフルーツジュースのお店の中で水や砂糖を使っていなくて一番美味しい所と言っていたのを思い出す。車を借りて出発する。電子端末と車が一台あれば、知らない場所でもどこへでも行ける。念願のぱぱ屋は宿がある海から山を越えて反対側の海沿いにあった。サバイバルキャンプの時は電波も届かない場所にいるからと端末を一切使わなかったことに加えて、土地勘が全くなかったから、自分がどこにいるのかすら分からなかった。ただただ鬱蒼とした熱帯の木々の中を車で運ばれただけだった。お店の位置関係が見えてくると、キャンプをしていた場所やそこから見えた灯台が何と言う所かも分かってきて、島の詳細や当時の行程が掴めてくるのが楽しい。ぱぱ屋ではサバイバルキャンプの時とは違う味を楽しんだ。最初に来た時に、もう一度来られるかどうかなんて全く考えていなかった。考える余裕がなかった。ここに来たのが二週間前だと思うと、同じ場所にいるのが感慨深い。
ふと、敷地の隣にある「米原のヤエヤマヤシ群落」「天然記念物」の石碑が目に入る。ん、何それ。こんな鬱蒼とした森が天然記念物とな。ヤエヤマヤシ。聞いたことがない。ヤシや植物の葉で暗がりになっている道がどう続くのかも分からないような所だったが、どこかで引き返すことを念頭に置いてひとまず足を踏み入れてみる。
中は雨に濡れた土の歩道が続いていて、少し歩くと木道が整備された板の間のような場所に出る。そこには管理する奉仕活動の参加者が説明を受けていたりして、思ったよりも人氣があった。ヤシの樹高は高く、対する根本は髭を生やしたような巨大な塊がごつごつと目に入ってくる。地面部分は迫力がある。説明文には「一属一種の固有種」という文言が何度も謳われる。動植物の分類法のことはよく分からないが、このヤエヤマヤシは一属に一種しかない、つまりこのヤシしかいない珍しい種なのだと言う。何だかすごいことは伝わってくる。この記事を作成するために少し調べたところ、ヤエヤマヤシは西表島と石垣島の米原地区に群生が確認されているだけの日本固有のヤシの種と言うことだった(後述、日本花卉文化株式会社の記事より)。
とは言っても、ヤシの葉が作る日陰の暗がりの中で、わたしの視線ではヤシの根元しか視界に入らない。そんな場所に何がある訳でもない。ひとまず写真を撮ろうと思った。
が、端末のカメラが、起動しない。画面が動かない。
これは、樹と通じろと言うことだ。ここですることは、観光客がするように写真を撮ることではないと言われている感じがした。お前がすることは別のことだろう、と。
目を閉じて、意識を目の前に生えているヤエヤマヤシ達に合わせるようにしてみる。じっとそこに立つ。あの人何をしているんだろう状態である。海辺に一つの方向を向いて立っているヤエヤマヤシの姿が浮かぶ。どうしてここに群れで生えているの。そう問いかけると、ここで群生していることにより土地の磁場を上げて一定に保っているとの感覚が返ってくる。どこに向かって、何を見つめているの。それは未来。あなた達は未来に何を待っているの。テロス。それがわたしが受取ったヤエヤマヤシ達の意思だった。そうか、この子達は一属一種と言う特殊な種としてテロスにいる生き物達と繋がっているんだ。その仲間と再び巡り合える来るべき日を、この場所の磁場を整え保ちながら待っているんだ。わたしにはそんな風に受取れた。と言っても、そう言われたように感じた程度の物で、何の証拠も根拠もない。わたしの戯言と言えばそれだけだ。ちょうど同じ頃に友達がアメリカの聖地と言われるシャスタ山に行っており、そこで三次元の地球と同じ場所に五次元領域で重なって存在すると言われる地底都市テロスからの言葉を受取ったと連絡が来ていたことも、わたしの妄想に加わったのかもしれない。だが、この頃話題になり始めた、2025年7月5日に大災難が起こると言われるその未来にも関わる話のように思えた。その頃には、わたしは何をしているのかな。そして日本はどうなっているのだろう。そんな未来に少し思いを馳せた。樹の意思に触れたのは初めての経験だった。そしてわたしにはとても大切な記憶のように思えて、いつまでも大事に自分の中に保管してある。
その後、カメラは正常に作動し、わたしは根っこや樹上の写真を撮ったが、端末の容量を整理する際にほとんどを消してしまった。大切なのは記憶だけ。唯一残っているヤシの葉の写真には、葉の隙間から溢れる光がぼやけて滲んでいる。
不思議な場所だったなと思いながら、群落を後にした。
他にも、宿のお客さんに聞いた「変な名人が集まるお店」明石商店や、神話が降立つ御神崎灯台に行った。ある展望台では、この地方出身のおじいと思われる御仁が孫のような弟子のような20代の女の子に琉球王国と八重山の歴史、三線について、石垣の地名の由来などを説明していて、思わず連絡先を聞いてしまった。薩摩藩と琉球王国との関係のように、琉球王国と八重山との間にも似たような歴史があったことが窺える。そのおじいは与那国島の出身で、お姉さんが神司のような霊感のある人だったと言う。沖縄では霊力のある女性の存在が身近なのだと感じ入る。色々と面白かった。ちなみに、石垣港の売店と明石商店で見かけて思わず買った「ハブの油」は、切り傷などに効いて何度も買いに来るお客さんがいるんだとか。宿のお客さんでもハブの油を知っている人はおらず、わたしはまた珍しい物を見つけたのだと笑みがこぼれた。


豆知識
後で宿のお客さんに聞いたんですが、ヤエヤマヤシと他のヤシとの簡単な見分け方があるんです。それは、ヤシの木の上部にある葉の根元の部分が紫色であること。他のヤシはここが緑色だったり、違う形になっていたりします。これが分かると、石垣島を車で回っていても、ヤエヤマヤシが色んな所に生えているのが分かります。こう言うのを探すも意外に楽しい。でも群生しているのは米原のあの場所だけなんですよね。そう思うと、少し胸がきゅんとします。
全然関係がないですが、お野菜も固有種を種から育てている物は美味しいと思うんですよね。
今回も日本花卉文化株式会社さんの記事がとても面白かったので、貼っておきます。

【うさこの本棚】(本の宣伝です)

ヤエヤマヤシと交信した感覚は、短い時間にも関わらずわたしの大切な記憶になっているんですが、その感覚が間違いじゃなかったことを板野肯三著『地球人のための超植物入門』に出会って確認できたんですよ。と言っても、何か根拠が示せる物ではないことは変わりませんけども。
著者はIT分野が専門の筑波大学名誉教授という肩書きをお持ちの方なんですが、何と植物と意思疎通ができるとか。全く畑違いのスピ領域に通じる学識者と言うのが興味深いし、読むきっかけになった理由の一つです。わたしは本書の中で出てくる上野の不忍池に生えている蓮の群生の話が大好きで、蓮の精霊が植物達が群生する意味や目的について説明してくれています。ああ、ヤエヤマヤシ達と一緒だと嬉しくなりました。上述の日本花卉文化株式会社さんの記事でも、なぜ石垣島と西表島の限られた場所に群生しているのかは分からないそうなんですが、うさこと板野肯三さんが受取った植物界の事情による理由なんじゃないかなと勝手に繋げてしまう今日この頃なのです。
この本を読むと、植物界が人間界と地球のためにとてもとても力を割いてくれていることを知ることができます。人間と同じ言葉を話さない物言わぬように思える植物達に感謝の氣持ちが湧いてきます。わたしはKindle Unlimitedで読みましたが、単行本もあるんだなあ。欲しいなあ。
他に、『地球人のための超科学入門』もあって、こちらは本当にこれぞスピ本と言うぶっ飛んだ内容だったので、興味がある方はどうぞ。


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