はじめに
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體術の『二度目の女子会』の記事はこちらから。

『朝の祈り』
座敷童への恐怖心と緊張から眠れずに冴えて疲れ切った頭を抱えて、翌朝、ツクブスマ姉妹と天河神社の朝拝に行った。
天河神社では毎朝7時20分頃から30分程、神殿にて「大祓詞」や辨財天と宇賀神様、役行者様のご真言も奏上する朝のまつりごとがある。当時はよく分かっていなかったが、神社の情報によれば、神仏習合のならいがのこっている天河神社ならではの朝拝なのだという。
朝の清々しい空氣の中、人氣の少ない神殿で祝詞を聞いた。祝詞の内容は全部は分からなかったが、最後に差し掛かった時に驚くべき言葉が聞こえた。これは公式サイトから持ってきた言葉だが、確かこういうことを言っていたのだと思う。
「生きとし生ける命が光り輝く一日になりますように。」
この人氣の少ない山間の村にある神社で、毎朝淡々と静かに唱え続けられる世界への祈り。誰が知らなくても、毎日厳かにこの世界に産み落とされる祈りの言葉。
人間の幸せだけではないんだ。
この地球に生きる動物も、植物も、虫達や菌類も、その他全ての命も同等なのだ。生命を紡ぎ合い、互いの営みが絡み合い支え合うこの星の全ての命の営み全体を寿いで讃えよう。そんな想いが込められているように感じる。天河神社の視座は高い。その祈りは、朝日が漏れる神殿の光景と相まって、きらきらと輝きを放っていた。
不意に、涙がこぼれる。奈良の山奥で朝から泣かされるなんて。全ての命にとって、素敵な一日になりますように。わたしもそう願わずにはいられなかった。
朝拝の後、わたしの次にツクブスマ姉妹の順番でそれぞれお参りをした。わたしは直前に失恋にも至らない想いが破れた出来事があり、どこかの過去世での因果を解消したように思えた相手がいた。落込みは大きかったけれど、一晩寝て泣いたらすっきりして感情を引きずることはなかった。ただ、自分で考えを巡らせていちいち喜んだり悲しんだりすることに疲れていた。わたしは誰と結婚するんだろう。頭の中に浮かぶ未来は空白しか見せてこない。もうこれからの相手のことは神様に委ねます。神様にあてがわれた人に文句は言いません。宿の女将さんがそっくりであろう辨財天様にその思いを伝えた。他にもわたしの夢や神様の使いとして使ってほしい旨を誓った。
わたしの次にツクブスマ姉妹が参拝していると、祭壇の中腹にある踊り場に鳩が現れた。神様の使いのようだった。きっと姉妹のご挨拶に対して使者を遣わされたのだろう。
それを伝えると、ツクブスマ姉が「うさちゃんがお参りした時には、何かが上から階段の脇を通って降りてきてうさちゃんの後ろを通ったよ。だからお願い事は聞き届けられたんじゃないかな」と教えてくれた。神様の指名なら、どんな男の人でもいい。とは言ったものの、聞き届けられてしまったんだとしばらく落込んだ。
宿に戻ると女将さんが朝食を用意してくれていた。食べながら、座敷童の話や宿にいるという龍の話をする。そして、何年か前にあった洪水の時の様子が氣になり話を聞いた。
「あの時は、村の入り口にある大きな鳥居の下まで水が上がってねえ。神社の周りにも水が回って、この宿の塀のすぐ手前まで水が来たんだよ。村の人は全員避難したんだけど、一人外から来た先生がいらして、水が来るから逃げようって村の人が声をかけたんだけど、私はここにいるって動かなくてね。その人だけが亡くなった。後は全員無事だったよ。」
天の川を渡ってすぐのあの鳥居の下というと、何メートルあるのかという高さだから、相当な水量だったのだろう。それでも被害はとても少なく、本当に神様の禊の様子に感じられた。
沢山お話を聞かせてくれた女将さんとの別れは名残惜しい。一緒に写真を撮って、別れのご挨拶をした。これから向かうのは、「二度目の女子会」で猛烈に勧められた丹生川上神社下社だ。
聞いたこともない神社である。
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