京都での講座が終わり、女子会を解散して関西から箱根に向かう。関西から地元に戻る途中で、関東に住む親戚や友人達と会っていこうと思っている。
明後日は友人達と神奈川県にある大山阿夫利神社に登るので、日程が空いた明日は箱根に寄ろうと思う。大山阿夫利神社に一緒に行く友人の一人が、神社の名前やら神様からのお声がけやらを受取る女性で、以前に箱根神社元宮と九頭龍神社に行ったと話していたのを聞いて、わたしも特別行きたいという訳ではないが、ぼんやりと氣になっていた。彼女はここ数年富士山に呼ばれている感覚があるらしく、富士山と言えば木花咲耶姫、その富士山が望める神社ということで箱根神社元宮の存在があったらしい。
今回は安い宿を探して泊まり、明日は箱根元宮を何となく目指しながら箱根周辺をぶらぶらするつもりだ。
そのため、少し割高だが京都からは新幹線を使う。小田原駅に着いた時には外は既に暗くなっていた。そこから路線バスに乗り替えて山の方に上った先にある宿を目指す。バスが走る道はさすが山道、右に左にくねくねと曲がり、バスの巨体ごと中にいる乗客を揺らして暗がりの中を走る。
宿に着くと、愛想のいい真っ黒なラブラドール・レトリバーと若い男性達に出迎えられた。宿を選んだ理由は、値段の他に温泉が引いてあることだった。でも、宿は古い家を改築して作られているらしく、作りは古くて好みではなかった。夕食は宿で注文して食べる。宿を経営している若い男性とその友人達が同じ場所で事業やら関連する話で盛り上がっていた。馴染みのない話、馴染めないノリ、話せない人達だと勝手に決めつけた。一人で黙々と食事を食べ、日記を書いて、あたかも一人の空間を壊さないでくださいという空氣を放っているかの如く、異質の存在感を固持する。こんな時、わたしは頑なだし不器用だなと思う。引き上げて温泉に入ると、手作り感満載の小さな浴槽で、その小さな空間の中に何とか温泉の温もりを探そうと湯に浸かった。
箱根歩きは、何も調べないで流れに任せて進もうと思う。
ごろごろと荷物を引きながら、元箱根までバスに乗り、そこから箱根神社に向かう。箱根神社あたりにコインロッカーがあることを期待する。境内は多くの人で賑わい、生活水準が高そうな小型犬を抱いた若い夫婦から、外国人観光客の家族連れまで幅広い。特に拝殿で何か神様の氣配を感じたりすることもなく、境内で何かの掲示を待ってみるがそれもなく、それでも離れ難くて端っこで境内を見つめていた。すると、参道の真ん中で道すがら写真撮影を頼んだ若い夫婦がいた。写真を見た彼らが、その写りの良さに驚く。撮影した女性は写真の仕事をしているらしく、夫婦は連絡先を交換していた。沢山の人がいて、繋がる必要のない人は通り過ぎ、会うべき人とはどこにいても出会うようになっている。その宇宙の采配を垣間見た氣分だ。今日も宇宙は滞りなく進行している。そう思い、嬉しくなった。
箱根神社にはコインロッカーはなく、仕方なく荷物を引く旅を続けることになる。その辺を歩いていれば、元宮に登るロープウェイが出る箱根園に向かうバス停に出くわすかと思ったが、ろくに調べずにいたため、歩道のない足の湖畔沿いの道路を荷物を引いて歩く羽目になった。車が通り過ぎる度に、突然現れる迷惑な徒歩旅行者のわたしを申し訳なくそして恥ずかしく思い、心の中でごめんなさいを連呼して歩いた。恐らく、バスが走る道路は神社から下りて一本向こうだったのではないかと思われる。
やっとの思いで箱根園に着いた。ロープウェイ乗り場に行くと、修理期間中ということで運休していた。がっくりきた。
ロープウェイが運休だからか、箱根園全体も閑散としている。ここから九頭龍神社まで行くにも、船は出ていない様子である。
来てみたものの、何もできない。どこにも行けない。芦ノ湖を眺めて、満たされないまま時間が過ぎる。食事処も好みの場所がなく、その中でもましな店を選んだが、ぱっとしなかった。この何にもならない旅に何か意味はあるんだろうか。
箱根園から小田原駅までは、逃さずにバスに乗る。車窓を眺めていると、道路沿いに曾我兄弟の墓なる物があるのが目に入る。丸谷才一さんの本だったか、林望さん訳の『平家物語』だったか、曾我兄弟の仇討ちの話を読んだ。そうか、ここも歴史の舞台だったのか。小田原駅までの長い道のりを、帰る場所に戻れる安心感が満たしていた。

【うさこの本棚】(本の宣伝です)

『平家物語』
丸谷才一さんを通して林望さんという方を知りました。何の本を通じてだったのか忘れましたが、何かで丸谷先生と対談されていたのだと思います。日本の古典に関する本だったんじゃないかなあ。漢字の音読みを取って「リンボウ先生」と呼ばれていました。
そのリンボウ先生が、「平家物語を読め」と言っていたんです。涙なしには読めない物語だと。当時、県立図書館の近くに住んでいて、探したところ、ありました。リンボウ先生の『謹訳平家物語』。速読の練習で読んだので、内容はざっとしか掴めていませんけれど、所々に本当に落涙物で、なぜ戦わなくてはならないのか、あの時代の無常と定めに想いを馳せずにはいられませんでした。男女の機微も描かれていて、切ないんですよ。調べた感じでは、曾我兄弟の仇討ちの話も載っているらしい。平家物語は一度読むと面白いと思います。
わたしはリンボウ先生の『謹訳平家物語』を読んだんですけれど、角川ソフィア文庫のビギナーズクラシックシリーズもお薦めです。平家物語以外の中国の個展や伊勢物語を読んで、分かりやすくてかなり重宝しています。伊勢物語についてはとんでもなく面白い連鎖があったので、またどこかで書きたいです。
チコちゃん情報によると、運動会の紅組白組は源平の合戦から来ているそうですよ。源氏が白、平家が赤だったみたい。白旗(しらはた)を揚げると言いますが、源平の合戦では逆だよなあ。
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