うさこは猫が好きである。
動物同士では、猫はうさぎの天敵だけど。
うさこにとっては、猫はうさこの心を浄化してくれた恩人なのだ。
これはきっと、猫に限らない。犬でも、鳥でも、動物を飼っている人は、動物達から癒しを与えられているはず。
人間同士では喜びもあるけど、疲れちゃう時もありますよね。
でも、動物は真っ直ぐに甘えてくれるし、自分の感情にとても正直なのです。
うさこはそこに心を救われました。
なぜなら、うさこは自分の本心を結構抑え込んで生きてきたから。
珍種として人間社会に合わせるために、見よう見まねで周りに合わせていたら、波風は立たなくなった反面、自分の本音を押さえ込みすぎて苦しくなってしまったのです。
うさこは猫達から、温かい真っ直ぐな「好き」を受けて、本当に心が浄化されてぽかぽかになりました。
頑張っているけど、どうしても自信が持てない方。自己を肯定できなくて、毎日が苦しい方。
人間の世界で疲れてしまったら、心を休めるために、ほっと一息つくために、少し時間はかかりますが、身近にいる動物と仲良くなってみるのも一つかもしれません。
今日は、そんなちょっと毎日が辛かったうさこと猫の物語です。
猫との出会い
うさこは元々猫が好きだった訳ではないのです。
周りに猫が大好き!と言う人は何人もいたけれど、どれだけ猫がツンデレで、存在が凛々しくて魅力的か、などど語ってもらっても「ふうん」だった。
いやはや、世の中には「猫好き」と言う種族がいるんですな。
そんな風に遠巻きに見ていた。
でも、それは去年の9月頃。
うさこは、知り合いの果樹農家のおばあちゃんから家庭菜園の畑を借りていた。
そのおばあちゃんをタネさん(仮名)としましょう。
タネさんの家では、猫を3匹飼っている。
もちろん、うさこはそこまで猫に熱を上げている訳ではないので、最初はお互いによそよそしかった。うさこは基本的に動物のことを好きなので、可愛いなとは思っていたけど、猫は知らない人にはすぐに懐かない。まあ、人間も同じですよね。
それならしょうがないよね、という感じで距離を保っていた。
うさこは当時、YouTubeで犬を非常に可愛がっている動画を見まくっていた。そこから展開して、インコや鸚鵡と人とのドキュメンタリーなども見ていた。
そこには、生き物に愛情を注ぐ方達と動物達との心の交流があった。
もらい泣きしてむせび泣くうさこ。(過敏なのですぐに感情が溢れる。どこでも泣く困った人。)
なんて貴い光景なんだろう。なんという慈しみだろう。
本当に感動してしまったのです。
うさこも動物達とこんな風に交流がしたいな。
人間の気持ちを賢く察知してくれる犬がよさそうだけど、うさこが今繋がりを持てるのは、タネさんちの猫だから…。
うさこは、タネさんちの猫達を可愛がろうと思い立ったのでした。
猫達と距離が縮まる
まず最初の協力猫は、タネさんちに行くといつも遭遇して、撫でやすいHANAちゃん(雌)。
うさこは猫に関する知識は皆無に等しいので、とりあえず寄ってきてくれたら優しく撫でて、気持ちよさそうにしている様子を観察する。気持ちよさそうにしていたら、その接し方を続ける。
観察と実践だ!
頭を撫でられて気持ちよさそうにしていたら、頭を撫でる。首をもっともっとと見せてきたら、首を揉ませていただく。
そうしたら!
ゴロンと寝転がってお腹を見せてくる!えええ、何それ!可愛い!いいんですか!?
すかさず撫で撫で。
猫ってこんな格好をするんだあ。
その内に、きちんと座っている姿勢しか目にしたことがなかったのが、両足を広げたりペンギンみたいに後ろ足で立ち座りをしたりと、砕けた姿で毛繕いをする姿を目撃するようになった。
猫は、慣れてくると色々な表情を見せてくれる。こんな動物だったなんて、知らなかったな。
可愛い。
そうこうする内に、雄のクロちゃんとも仲良くなった。クロちゃんは額に黒い暖簾が掛かったような、いわゆる「ハチワレ」の猫ちゃんで、仲良くなるとうさこの姿を見て駆け寄ってくるようになった。
最後の1匹は、殿様気質のグラタン君(雄)。彼はその日によって機嫌が違う。撫でられすぎて怒る時もあれば、際限なく抱っこを求めてくる時もある。「我が意に添え」そんな感じ。
そんな猫達を撫でる時に、YouTuberの方達に近づくべく、うさこも意識して「可愛いねえ」「嬉しいねえ」「気持ちいいねえ」「幸せだねえ」と話しかけるようにした。
弟との比較、劣等感
うさこには弟の鯛めしがいる。
白いご飯とじゃがいもが大好きで、小さい頃は特に顔立ちが可愛くて、女の子によく間違われていた。鯛めしじゃなくて、炭水化物と読んでもいいかもしれない。
運命とは残酷なもので、うさこはその鯛めしと否応なしに比較される羽目になるのです。
鯛めしは母煮、違う、母似。うさこは父に似た。
世の中のあるあるだけど、「女の子はお父さんに似ると幸せになる」という世間の言い伝えが鬱陶しかった。…どう考えたって違うじゃん!可愛さをもらってないよ!
そう、うさこは小さい頃は、顔では売っていくことができない系統だった。大人になると変わったけどね。
小さい頃の劣等感って、うさこみたいに抱え込んでしまう性格の人は引きずり易いですよね。
「うさこは可愛くない。鯛めしや他の子は可愛い。」
そんな暗号を脳に入力してしまったのでした。大人になってそれなりに身なりを整えられるようになっても、それがなかなか抜けなかった。
それは脳の奥深くに刻み込まれた暗号だから。普段の生活では押し込めて、何とか取り繕っているから、強く自覚することはないので気づきにくくなっている。
つまり、潜在意識に深く刻み込まれてしまっていたんですね。
心の浄化
うさこは、どこかで喘いでいたのだ。
うさこも可愛いって言われたい。うさこちゃんのこんなところが素敵だよって言ってくれる人がほしい。
自分でいることに安心したい。自信を持ちたい。
だからなのでしょうね。
猫達に「可愛いねえ」「気持ちいいねえ」「嬉しいねえ」「幸せだね」と声を掛けて撫でていたら、目から涙がこぼれ落ちてきた。
あれ、なんでうさこは泣いているんだろう?
感極まった訳でもないし、特に感情が震えた訳でもなかった。
無色透明の涙。
だけど、うさこは分かった。これは、わたしが言ってもらいたかった言葉だ。
嬉しさのあまり頭突きをして頭をこすりつけてくる猫。うさこを見つけると、タネさんちの広いお庭の植木をかいくぐって走ってくる猫。背中を地面にこすりつけてお腹を撫でてもらいにくる猫。
そんな猫達が本当に愛らしかった。
こんなに真っ直ぐな愛情表現をもらったのは、初めてなのかもしれない。
そしてうさこが、真っ直ぐに誰かの好意を受け止められたのも。
胸の内側がいつもあったかかった。辛いことがあっても、残りの半分は猫達からもらった愛でいつもほかほかしていた。
②へ続きます。
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