はじめに
前回の記事はこちら。
たまたま本屋を歩いていたら、寄藤文平さんの挿絵が目に入った。寄藤文平さんの絵は当時とてもよく目にして、そしてとても惹かれて氣になっていたから、自然とその本に吸い寄せられて行った。
その絵を見るに、どうやら「箱」に関する本のようで、箱の中に人が描かれていた。その箱の中にいる人はいがみ合い、箱の外に出ている人は平和そのもの、そんな光景だった。裏表紙や口絵には、胴体と頭部や、上半身と下半身が箱の中と外で切り離されいる絵が載っていて、不思議な絵だと思った。独特な構図に興味が湧いた。
そして、それらの絵に添えられていた文章もまた、わたしの心を惹きつけた。
「全て、箱の外に出ているか否かにかかっている」
「もしかしたら、あなたこそが問題を引起している張本人かもしれませんよ」
あなたこそが、問題を引起している張本人。少しどきりとしながら、わたしのことかもしれない、心の奥でそう感じた。
このことは、この社会を生きるほとんど全ての人が陥る問題について書かれている。
この本を手に取った当時は、大学生だったか社会人一~二年目だったか。わたしは人間関係での悩みを多数抱えていた。読んでみたら、とても面白い本だった。それでも、未だに内容を実践し切れていない。
そんな訳であれから結構時間が経ったけれども、本書はわたしの心の灯火の一つであり続けている。
『自分の小さな「箱」から脱出する方法』アービンジャー・インスティテュート著、大和書房
「全ては『箱』から始まる」
象徴的な一文から本書は始まる。
「箱」って何。「箱」から始まるって何。そう思う。さらに本文ではこんな風に提示される。
「わたしには問題がある」という視点だ。嫌なところを突かれそうだなという予感がした。それと同時に、どこかでその不安と共に期待を抱いている自分がいた。
物語は、アメリカのある有力企業に転職した有能な男性の主人公の視点から始まる。入社して一ヶ月ほど経ったある日、主人公はこの企業独自の研修を受けることになっていた。
その研修の中で語られたことが、「箱について」であり、「箱の弊害」と「箱から出る方法」についてだった。そして、この会社の社長がそのことを理解した後に、会社は驚くほどの業績回復を遂げ、主人公がぜひ働きたいと思うまでの企業に成長した。
主人公とその物語の中で展開される事例は、身に覚えがあった。公務員時代、いや今振返っても、あの時自分だけは頑張っていると思い込んでいたけれど、実は独りよがりの頑張りで逆に周りに迷惑をかけていただけだったかもしれなかった。そんな風に思い出すだけでも顔が熱くなり、胸に痛みが走るような事例が、本書で次々に目の前に現れる。
それを突付けられた主人公の心の動きと連動して、わたしの心も氣まずくて逃げ出したくなる衝動に駆られる。
どうして他人を責めたくなるのか。
箱に入るという言葉が意味するものとは何か。
こういった箱の仕組みが、夫婦関係、親子関係、会社の業績を悪化させていくらしい。
本書の中ではその種明かしがされるのだが、それが分かっても実際に自分の箱からは出方がわからないし、つい相手を変えようとしてしまう。
だって、相手にどうしても伝えなければならないこと、厳しい現実だけれども言わなければならないこともあるじゃないですか。
主人公と同じく、そう言いたくなる。
そんな時に、相手に対して肯定的な影響力を与えられるかどうかも、「箱」の内側と外側どちらにいるかにかかってくるらしい。
そんなことが一つ一つ紐解かれていく。
最後に、そういった事柄についてこの会社の社長が学んだことで、社員と家族との再生の物語が語られる。実際にこういう話はどこかにあると思うなあ。結構じんときた。
本物の小説家と見まがうくらいに話はよくできていたし、この本がビジネス書として表現しようとしている概念がぴったりと過不足なくまとめられていることにも脱帽だった。
わたしにも色んなことがあった。色んなことを学んだ。自分の凝り固まった思い込みを根底から覆されるような経験もした。それは一見すると精神的に厳しい指摘に思えた。けれども、結果的にそれらの体験によって、わたしは無駄な信念を削ぎ落とし、少しずつ「わたしはわたしでいいんだ」と感じ取れるようになっていった。
本書で語られるように、自分の間違いを認めることは、痛みだけではなく恩恵ももたらす。
そんな風にして長い長い寄り道をしながら、わたしはようやく少し本書の意味が体感として分かるようになった。そして本書でのそれは、もっと優しく語られる。
こうやって読むだけでも豊かな氣持ちになれるし、人生の引出しが一つ増えたような爽やかな開放感が得られる。本書はそんな一冊です。
<本の情報>
- 書名:『自分の小さな「箱」から脱出する方法』
- 著者:アービンジャー・インスティテュート、金森重樹監修
- 出版社:大和書房
- 価格:1,690円(税込)
<こんな人に読んでほしい>
- 人間関係の問題を抱えている人
- 自分が正しいと思いつつ、どこかで疑問を抱いている人
- こんなビジネス書があったんだと感動したい人

新装版も出ていました!
まとめ

本がどんどん売れなくなっていくこの時代において、本書は書店で見る度に版を重ねて売れ続けている。
本書を知っている人に巡り合ったことはないし、わたしの周りでも話題になっていないけれども、読書が人生を豊かにすることをビジネス書で感じさせてくれる本としてわたしは本書を一押しで推薦したい。


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