書評『赤毛のアン』|愛情と友情に満ちた心掴まれる不朽の名作

うさこの本棚

はじめに

 前回の記事はこちら。本書を読んでいたら、つい夢中になって読んでしまい、投稿が遅れました。すみません。

 本書を手にとって読んだのは、ちょうど6年前の今頃、コロナ禍の最中だった。

 この年の新潮文庫の夏の100冊に選ばれていて、そういえば中学生の時の読書仲間だった仲良しの子がこの『赤毛のアン』のことが大好きだったなと手に取ったのがきっかけである。

 わたしは、中学生の時に図書館から借りた本から本と読書が大好きになった。その図書館を通じて仲良くなったその子が愛読してやまないのが、『赤毛のアン』の連作集だった。

 いつかプリンスエドワード島に行ってみたい。プリンスエドワード島がねと、熱に浮かされたようにそう言っていたのを、当時はふうん、そうなのねと何とも思わずに聞いていた。

 でも、大人になってようやく分かった。そういう読者を作ってしまうのが、名作と呼ばれる作品なんだと。確かに、赤毛のアンは面白かった。

『赤毛のアン』|モンゴメリ著、村岡花子訳、新潮文庫

 面白い小説というのは、冒頭で決まる。それは出版社の編集者も言っていた。そしてこの『赤毛のアン』は、その見本のようだった。始まりの1、2頁でわたしの心を掴んだからである。

 出だしのリンド夫人の描写は、わたしをアンが住むプリンスエドワード島の一角に一瞬で引き込んでいた。

 面白い。この本を買おう。物語の最初だけでそう思わされた。

 両親が病で亡くなり孤児になったアンは、将来働き手になる男の子が欲しいと思っていた妹のマリラと兄のマシュウ兄妹の元に、手違いでやってきた。堅物のマリラは、こんな子はいらないと言い、無口で控え目なマシュウはアンのお喋りが氣に入ってしまった。

 そんなところから、アンの「緑の切り妻屋根グリン・ゲイブルス」のお家での生活が始まった。

 アンは癇癪持ちでそそっかしくて、いつも失敗ばかりして近所の奥様方や母親代わりのマリラを怒らせたり困らせたり、事件を起こしたりして話題に事欠かないんだけれども、それでも大好きな空想癖を拠り所にして様々な事件を乗越えて、段々と地域に馴染んでいく。

 日に日にアンへの愛おしさが増していくこの老兄妹の心境がちらちらと覗く中で、アンと親友で「腹心の友」であるダイアナとのお喋りや、学校での出来事、地域の牧師夫妻や教師達、季節毎に開かれる音楽会や朗読会の様子が美しい季節の移ろいと自然の色彩と共に綴られ、飽きることなく心が満たされていく。映画もテレビもない時代に、人々の暮らしはこれほど愉快なものだったのかと目を見開かされる。今のような娯楽がなくても、わたし達人間の暮らしは楽しかったんだなあ。

 アンとギルバートの小さなすれ違いには年甲斐もなく心が疼くし、マリラとマシュウからアンに注がれる愛情とアンからの信頼と労りには、心が温かくなって何度でもむせび泣いてしまう。こんなにも人の心を温もりで震わせる物語もあまりないんじゃないだろうか。

 それとも、それは長年親との葛藤を抱えてきたわたしが特別に感じることなのだろうか。そう思う程に、アンの物語は愛情と友情と美しい自然に満ちている。

 本を読みたいけれど何を読んだらいいか分からないという人がいたら、わたしは迷わず、この『赤毛のアン』をお薦めする。

 それぐらい、誰が読んでも面白い物語だ。

本の情報
  • 書名:『赤毛のアン』
  • 著者:モンゴメリ
  • 訳者:村岡花子
  • 出版社:新潮文庫
  • 価格:880円(税込)
  • 頁数:529頁

<こんな人におすすめ>

  • 赤毛のアンが氣になっていた人
  • 映画やドラマに頼らない、静かで豊かな暮らしの物語を味わいたい人
  • 家族や地域の人々との愛情のこもった物語に触れたい人

うさこ
うさこ

こちらは松本侑子さん訳、文春文庫版の『赤毛のアン』です。

まとめ

うさこ
うさこ

 『赤毛のアン』ほどの古典の名作ならば、今年の夏の100冊に入っているに違いない、と思っていたけれど、調べてみたら今年は入っていませんでした。

 完全なる思い込みと見切り発車をしてしまいました。

 今年の100冊ならば、恩田陸さんの『夜のピクニック』や、それこそわたしが中学校の図書館で借りて本が大好きになった上橋菜穂子さんの『精霊の守り人』(映画化やドラマ化もされた『守り人』シリーズ)、日本人がなぜ第二次世界大戦に突き進んだのかを高校の授業で解き明かす加藤陽子著『それでも日本人は「戦争」を選んだ』(高校生達の頭が良過ぎませんか)、ああっ、太宰治の『人間失格』もある。ヘミングウェイの『老人と海』も、芥川龍之介の『羅生門・鼻』も、白洲次郎の『プリンシパルのない日本』も、サン=テグジュペリの『星の王子さま』まで入っていたのかあ。読んでいるのに、調べが足りませんでした。中島敦の『李陵・山月記』は中国の歴史が分かると面白そうだから、調べてからちゃんと書評を書きたい。

 なのに、一個もかすらない赤毛のアン。今年は新潮の100冊には入っていなかったんですね。でも、誰にだっておすすめできる古典の名作です。

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