はじめに
今回も、図書館で借りた本で特に印象深かった本の読書感想文です。
本書と同時に借りた『ビスケット』キム・ソンミ著の記事はこちらから。
『物語を継ぐ者は』実石沙枝子著、祥伝社
わたしは子どもの頃から大人になって以降もしばらく、この世界は汚れて腐っていて、生きるのが辛い場所だと思っていた。
親との関係は苦痛と我慢を強いられる限界集落みたいな環境だったし、その親の元で引起されるあらゆる問題は、わたしの心を暗く沈めた。小さい頃に沢山の人が亡くなったし、残された人達も皆辛い思いをした。元々の変わり者の性質と相まって、親との間で身に付けた歪んだ優等生氣質とそこで溜め込んだ自己否定感情のお陰で、子どもの頃から大人になってもしばらく、わたしは友達と呼べる友達が数えるほどしかいなかった。心の中ではいつも誰かを批判し、欠点を粗探ししては、風前の灯のような自尊心と劣等感で抉れた心を宥めて日々をやり過ごす。
人生は辛い側面の方が多かった。それに、わたしは幸せになることを自分に許していなかった。
けれども、氣付くと視界は景色と色合いを変えていた。
そんな風に辛いことの方が多い時間を過ごす中でも、わたしは人間関係を少しずつ学び、自分の欠点を直すために小さな誠実さを身に付け、時に血反吐を吐く思いで自分の心の穴を埋める術を養った。そうしてゆく中で、次第に友達にも心を許せるようになった。長い時間をかけて、好きな物を好きだと言えるようになり、そんな好きな対象がある自分を肯定できるようになった。韓国の好きなアイドルグループの男性歌手、女の子らしくて可愛い編み物達、蝶々結びで飾られたふわふわの毛糸の服、子どもの頃から一緒にいるぬいぐるみ、女性らしい手帳、美形の中国俳優や女優さん達、速読や好きな本のこと、漢詩や語学のこと、文学のこと、神様や天使がいる世界のこと、愛を塊にしたような猫達のこと。
好きなことを好きと言えるようになるにつれて、わたしから見えるこの世界には愛する物が増えていった。
ちょっと前までは、自分のことも含めて、この世界の誰のことも好きではなかった。心の中はいつもぎすぎすと棘だらけで荒んでいた。それが今は、心を通わせた友達に囲まれていて、大好きな物達でわたしの世界が埋められつつある。
まるで画面の中の旅で主人公が成長するゲームのように、わたしはこの薄汚れた世界を旅しながら、必死に愛する物を見つけ出そうとする試みに挑み続けてきたような感覚を覚える。一つ一つの出来事や経験を通じて、じりじりと自分の中の風景を上書きする。嫌いだった人を許せるようになり、否定していた自分を受入れて、大好きな物が徐々に徐々に増えていく。
生きるって、大人になれるって、そういうことなのかもしれない。
この物語を読みながら、終盤は自分のこんな想いと主人公の氣持ちを重ねていた。物語の内容は全く違うのだけれども、これはそんな物語だと思った。
話自体は、学校でいじめられていた主人公を救った一冊の本とその著者を巡る、女の子の成長と家族の物語である。現実と空想の世界を行き来しながら、子どもの自分と親達の事情や心境を少しずつ紐解いて、庇護される立場でしかなかった女の子が大人になっていく。
わたしの人生もまた、この小説という虚構と現実との間を行き来する主人公の物語のように、一つの虚構の中に繰り広げられている小さな世界のようだと思う。
わたしには、このブログを毎回楽しみにしてくれている友達がいて、わたしが日々触れた美しい景色や人との出会いを綴り共有することができる。彼女がどんな想いでわたしの文章を待っていてくれているのか、同じような立ち位置でこの本の主人公を励まし支える友人の描写を読みながら聞きたくなった。
本書は多分、小中学生向けの児童文学なんだけれども、わたしは大人になってもこの瑞々しい感性を持って生きている年代の物語が大好きだ。そして、今もそこから大切な感情を教えてもらっている。
この本もまた『ビスケット』と同じように、県立図書館で子ども向けのおすすめ本棚にあったところから目が離せなくなった。心が惹かれる物には、自分の大切な物語が詰まっている。それを確認させてくれた一冊になった。

まとめ

いくつになっても脳内の一角が御伽の国のわたしは、青少年文学が好きなんですよね。いつまでも大人になり切れていないと言われるかも知れないし、子どもの頃の感性を大事に持っていられると捉えることもできます。
誰もが子どもだった時があり、その子どもの氣持ちが硬直しかけた大人の心に水をかけてくれるとも思っています。
そうだよねえ。そんな風に思っていたんだよね。あの時はそんな氣持ちだったよね。
そんな風に、大人になってから、自分の中にいる子どもだったり多感な記憶の自分に寄添う時に、子どもの頃に溜め込んだ嫌な感情が癒やされたりもしますよね。それは大人になったからこそできること。そんな時に、児童文学が一役買ってくれるように思います。

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