『海辺の話』(宮城県石巻編③)

うさ旅

はじめに

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『海辺の話』

 二日目は、波の影響で漁が休みとなる。

 一日空いたその時間をどうしようかと思っていた。本当は、せっかく石巻までわかめ漁のことを知るために来たのだから、漁師さんにわかめ漁のことや海のこと、雄鹿半島のことについて色々と聞きたかった。

 ただし、そんなことを聞くと、きっと変わり者だと思われることは間違いなかった。ただでさえ、遠方からわかめ刈りの体験したさに女で一人で来ているのだ。数秘33の理解不能な自分を受入れたとはいえ、実際の場面でいざそれを発揮するとなるとまだまだ及び腰になった。

 朝、昨日漁師さんの奥さんに刻んでもらっためかぶを買ったご飯に乗せてめかぶ丼にして食べながら、また逡巡する。目の前に置かれた電源の入っていない大きなテレビ画面の中に、鏡に映すようにめかぶ丼を食べる暗い自分の姿が映る。自分の頭の中では、いつも自分に対する否定的な言葉が浮かび、自分のだめなところばかりを考えてしまうが、こうして姿勢良く食事をしているわたしは、慎ましく食事をしているそれなりの女性である。そんなに自分を卑下することはないじゃないかと氣を取直す。昔に比べたら、少しずつ肯定的になっている。

 朝5時に仕事が始まる漁師さんの一日を考えると、もうすでに十分朝の時間は過ぎているが、今連絡をすれば、まだ午前中の予定を組むのに間に合うはずだ。

 勇氣を出して伺いたい旨を連絡すると、漁師さんは想定以上に歓迎してくれた。急いで準備をして、雄鹿半島に向かう。

 道路は早朝に比べて混んでいたが、それでも40分程で到着できた。

 海を見ながらでも話が聞けたらいいと思っていたら、漁師さんは自動販売機でお茶を買い、作業場の倉庫にわたしを招いた。中には、野営で使えるガスコンロの上で牡蠣の入った缶が蒸されていた。

 「今、牡蠣を蒸しでっから」

 わざわざ牡蠣を用意してくれた心遣いと、忙しい中で時間を取って頂いたことへのお礼を伝えながら、少しずつ話が始まった。

 漁師さんの家業のこと、震災当時の状況と雄鹿半島の地震での揺れ、船を津波から守るために地震直後に船を沖に出して翌朝まで戻れなかったこと、沖から見えた石巻市内の惨状。震災の復興からわかめ漁に繋がる話、海から獲れる魚や甲殻類の収穫量の変化。山と海との関係や地形と収穫量との関係、環境の話。集落での暮らしや漁師同士の連帯など、その他にも、実は話しにくいことに関して共通項があり、いつまでも話は終わらなかった。やっぱり、わたしがわざわざわかめ漁の体験したさに遠方から来ると聞いた時は驚いたそうだ。

 途中で火にかけられた牡蠣を漁師さんが自ら剥いてくれて、なぜかそのほとんどをご馳走になる。牡蠣の殻には、アコヤ貝の稚貝と思われる物やフジツボなんかが付着していて、好奇心で少しずつ齧ってみると、フジツボは予想以上に滑らかな舌触りで甘みがあった。牡蠣とクリームチーズの間のような味だったが、漁師さんは普段からフジツボは食べないらしい。フジツボを食べるわたしを見て、ええっ、食べんの、と若干ぎょっとしている。勧めてみても、

 「俺はフジツボは食わね。牡蠣がいい」

と言って牡蠣をつまんだ。この牡蠣は、漁師さんが仲間のお手伝いで今朝牡蠣剥きをした一部らしい。ありがたい。

 お昼をお世話になるつもりはなかったが、どこかに食べに行こうということになり、定休日の店を外して連れて行ってもらったのは高級寿司店だった。そこでかなりのお寿司をご馳走になりながら、またわかめ漁の作業のことや環境に関することなどを色々と聞いた。お寿司はどのネタも一つ一つの味わいが異なり、それぞれがどれも美味しかった。雄鹿半島ならではの鯨のお寿司もあった。汗をかいた大トロと鯨のお寿司を残して食べていると、大物を残しでんなと漁師さんにからかわれた。

 漁師さんの反応を伺いつつ、わたしがいつまでも話をやめないので、どれ、そろそろ帰りますかと漁師さんが切上げた。わたしは心の中で、すいませんと苦笑した。

 こんなによくしてもらっていいのだろうかと思う程、本当によくしてもらい、ありがたかった。

 一度宿に戻り、午後の空いた時間を少し他の調べ物に当てて、漁師さんとの会話を振返る。わたしは変わり者だけど、受入れてもらえている。今日の漁師さんとの時間は、その事実を確かめさせてくれた。いつも嫌われないように、浮かないように、内心びくびくしながら人と過ごしていたが、その緊張感から解きほどかれた感じがした。大丈夫、わたしは受入れられているんだ。

 それから今日の夕食を考える。またご飯だけを買って、残りのめかぶで丼にしてもいいが、宿に籠って過ごすのも味氣なかった。周辺の喫茶店や飲食店を探すと、復興のための食と音楽と芸術祭の実行委員会がやっている地元食材を使ったおでんと地酒のお店を見つける。駅に直結した面白い作りらしい。よし、今夜はここで少しだけおでんと地酒を頂こう。

 明日はまた朝が早いから、今夜は早い時間に引上げられるように早めに出発したつもりだった。

 お店に入ってみると人はなく、店員の若い女性が氣さくに話しかけてくれた。遠方からと言うと、わかめ漁ですかと間髪入れずに返事が返ってくる。この季節にアルバイトにくる人は、大抵がわかめ漁なのだそうだ。色々と話が弾んで、その芸術祭の見どころやおすすめの場所を教えてくれた。この方も少し独自の感性を持っていらして、鹿の彫刻がある場所の氣がいいから感じてみてほしいと言われた。明日の漁が終わったら行ってみようと思った。

 そんな風に時間を忘れておでんをつついていたら、一時間のつもりが二時間も経ってしまった。睡眠時間が少なくなってしまう。弾んだ心と共に、足早にお店を後にした。

 筋肉痛は大分回復してきた。明日は最後の漁の日だ。睡眠時間はぎりぎりだが、何とか持堪えてほしいと自分に願った。

まとめ

うさこ
うさこ

 後から思うと、漁師さんはわたしの訪問をとても喜んでくれていたようで、あんなにしつこく質問攻めにして、ご飯を与えてもらいながら長時間帰らずにいるわたしを面白がってくださった様子だった。本当に、自分の心持ちや認識の前提が変わるだけで、世界は本当に優しくなり、姿を変えるんだなあと体感した日でした。

 また、自分が見ず知らずの土地でもピンと来る場所に行くことも、旅の展開を開いていくためには本当に有効であることをこの日に再確認しました。

 牡蠣蒸しとお寿司の写真は、残念ながら撮り忘れました(笑)。牡蠣はお水を入れ忘れたらしく、話に氣を取られて下の方は焦げているのを見て、漁師さんは失敗感を漂わせていたけど、ステーキみたいで美味しかったなあ。蒸し牡蠣と焼いた牡蠣、両方食べられた感じでした。

 海の恵み、地球の恵みは最高だ。

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